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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)7816号 判決 1960年3月29日

原告 志村陸城

被告 小沢佐多子 外一名

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、被告小沢佐多子が予備的原告に対して金一一万円及びこれに対する昭和三二年一〇月四日以降右完済に至るまで年五分の割合の金員を支払うことを命ずる。

三、予備的原告の被告萬野慎誠に対する請求はこれを棄却する。

四、訴訟費用はこれを二分し、その一を原告その余を被告小沢佐多子の負担とする。

五、この判決は第二項に限り仮に執行するこることができる。

事実

原告訴訟代理人は、被告等は各自原告に対して一一万円及びこれに対する昭和三二年一〇月四日以降右完済まで年五分の割合の金員を支払え、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決と仮執行の宣言を求め、其の請求原因として、次の通り述べた。

(一)  原告は訴外真福寺から、東京都港区芝愛宕町一丁目八番地所在愛宕会館を賃借していたのであるが、昭和三一年七月七日被告小沢に対して同会館の内一階西南寄り第二号室(この坪数二三坪)を、同日以降使用時間毎日午前八時から午後九時まで、使用料毎日一五〇〇円その都度前払という定めで継続的に毎日使用させることを約し、同被告は同日から昭和三二年二月末日まで毎日右二号室を使用した。ところが同被告はその間昭和三一年一〇月一日までの使用料はこれを支払つたが、その後の使用料はこれを支払わずに依然として毎日使用を続けていたので、原告は昭和三一年一二月一日被告小沢到達の内容証明郵便を以て、直ちに使用を拒絶する旨と、同年一〇月二日以降同年一一月三〇日までの未払使用料七万八〇〇〇円を直ちに支払うことを通知した。しかし同被告はこれに応じないのみか、依然使用料を支払わずに前記昭和三二年二月末日まで毎日使用をしてきた。

したがつて、原告は同被告に対して、未払使用料七万八〇〇〇円と右昭和三一年一二月一日以降昭和三二年二月末日までの使用料相当額の原告の賃借権を侵害したことに因る損害金一二万二〇〇〇円の請求をなし得るわけであるが、前記契約当時支払保証のためとして、九万円を同被告から受領していたので、右約定未払使用料全額と損害金の一部にこの九万円を充当し、この残額一一万円とこれに対するその履行期後である本件訴状送達の翌日以降右完済まで年五分の遅延損害金の支払を求める。

(二)  被告萬野は被告小沢と共同して小沢人形学院という名で事業を共同経営しているものであるが昭和三一年一〇月三日原告に対して、前記被告小沢の本件使用料支払債務を重畳的に引受けるとともに、被告小沢とともに共同経営者として前記のように本件二号室を使用していたものであるから、被告萬野に対しても、被告小沢に対する同一の理由を以て同額の金員の支払を求める。

予備的原告訴訟代理人は、もし、原告個人の資格における請求が容れられないときは、被告等は各自予備的原告に対して、原告に対すると同額の金員を支払え、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決と仮執行の宣言を求め、其の請求原因として、前記(一)、(二)の内原告とあるを予備的原告と訂正する外、前記(一)、(二)の通り述べた。

証拠として、甲第一、二、五号証の各一、二、同第三、四号証、同第六号証の一、二、三、同第七号証ないし第一一号証を各提出し、証人伊藤憲郎、同古谷静雄及び原告本人兼原告代表者志村陸城の各尋問を求め、乙号各証の成立を認めた。

被告小沢の訴訟代理人は、原告の請求棄却、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告主張事実中昭和三一年一二月一日原告からその主張の内容証明郵便を受領したことはこれを認めるが、其の余の事実は否認する。即ち、原告のいう愛宕会館を訴外真福寺から賃借したのは、原告ではなく予備的原告である釈尊御遺形奉賛会(当時の代表者大谷瑩潤)であり、被告小沢は右釈尊御遺形奉賛会から予備的原告主張の本件第二号室を借受け使用していたもので原告から借受けたものではない、と述べ

被告萬野は、原告の請求棄却、訴訟費用原告負担の判決を求め、答弁として、原告主張の愛宕会館は当時大谷瑩潤を代表者とする釈尊御遺形奉賛会が訴外真福寺から賃借したものであり、原告個人が賃借したものではない。原告は右会の事務を管掌するものにすぎない。したがつて本件二号室は被告小沢佐多子が右会の会員として会の許可を得て使用していたものであり、原告個人との契約に依つて使用していたものではない。被告萬野が原告のいうように被告小沢の経営する小沢人形学院の共同経営者として本件二号室を使用していたということおよび原告のいうように原告あるいは予備的原告に対してその主張のような重畳的債務引受けをしたことは否認する。と述べ

証拠として、被告小沢は証人阿部竜伝の尋問を求め、甲第一、二号証の各一、二、第四号証ないし第六号証の一、の各成立を認め其の余の甲号各証は不知と述べ、被告萬野は、証人阿部竜伝、同小沢忠の各尋問を求め、乙第一号証ないし第四号証を提出し、甲第二、第五号証の各一、二、第六号証の一、二、三、の各成立を認め、其の余の甲号各証は不知と述べた。

理由

(一)  原告がその主張するように、特段認定の釈尊奉賛会と関係なく、個人の立場で、本件二号室を含む愛宕会館を訴外真福寺から賃借し、その一部である本件二号室を被告小沢にその主張のような契約で使用させたという事実は、原告の本件における全立証をもつてしても、到底これを認めることはできない。

(二)  かえつて、成立に争のない甲第五号証の一、二、乙第四号証、原告本人志村陸城の供述に依つて成立を認めることのできる甲第二号証の一、同第三号証、同第四号証(被告萬野に対する関係においては成立に争がない。)同第八号証、同第一〇号証、同第一一号証、証人古谷静雄の証言に依つて成立を認めることのできる甲第一号証の一(被告小沢に対する関係においては成立に争がない。)の各記載と証人伊藤憲郎(一部)、同阿部竜伝、同古谷静雄、同小沢忠ならびに原告本人志村陸城の供述に依ると、「釈尊精神の振作昂揚、特にその新しい大衆化、社会化、生活化の運動を中心に、広く道義の恢弘と社会人心の作興を図り、併せて同じく釈尊えの随仰を機縁に結んでの民族の親善、融和に努め、以て社会文化の向上と世界恒久平和実現に寄与する」という目的のために成立した会であり、その会則によると、右の趣旨に賛同して金品その他の方法によつてこれを援助する個人あるいは団体をもつて会員とし、その役員として、中央奉賛委員、執行委員、事務局長をもち、右の中央奉賛委員を以て構成する中央奉賛委員会によつて会務の全般的運営を図り、又右の執行委員を以て執行委員会を構成して、その互選に依つて選出した執行委員長に依つて会務の執行に当らせるとともに、右中央奉賛委員会ならび執行委員会の定めるところによつて会務を総理し又は執行委員長事故あるときにその代行をするものとしての事務局長を有する予備的原告釈尊奉賛会(その事務局長は現に志村陸城である)の主張する請求原因事実(但し被告萬野が小沢人形学院の共同経営者として、本件二号室を被告小沢と共同使用したという事実および被告萬野が被告小沢の債務を重畳的に引受けたという事実を除く)を認めるのに充分であり、この認定に反する証人伊藤憲郎の供述部分は当裁判所の採らないところである。

(三)  そして、被告萬野が予備的原告のいうように、小沢人形学院の共同経営者として、本件二号室を被告小沢と共同使用していたということと、被告萬野が被告小沢の債務を重畳的に引受けたということについては、これを認めるに足りる証拠はない。即ちこの点についての証人伊藤憲郎の供述の一部あるいは甲第六号証の二をもつてしても予備的原告の主張を認めるわけにはいかない。

(四)  以上の次第であるから、原告の本訴請求および予備的原告の被告萬野に対する請求は、いずれもこれを失当として棄却し、予備的原告の被告小沢に対する請求はこれを正当として認容し、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項、第九五条、第一九六条を各適用して主文の通り判決する。

(裁判官 安藤覚)

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